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名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)2302号 判決 1991年12月20日

岐阜県高山市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

岩本雅郎

朝日裕晶

名古屋市<以下省略>

被告

大起産業株式会社

右代表者代表取締役

Y1

愛知県尾西市<以下省略>

被告

Y1

新潟市<以下省略>

被告

Y2

長野県松本市<以下省略>

被告

Y3

同県同市<以下省略>

被告

Y4

右五名訴訟代理人弁護士

吉田清

加藤毅

右吉田清訴訟復代理人弁護士

山田博

主文

一  被告大起産業株式会社、被告Y2、同Y3、同Y4は、原告に対し、各自金五九四万八七五〇円及びこれに対する昭和五九年八月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の右被告らに対するその余の請求及び被告Y1に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用に二分の一、被告大起産業株式会社、被告Y2、同Y3、同Y4に生じた費用の二分の一と被告Y1に生じた費用を原告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告大起産業株式会社、同Y2、同Y3、同Y4に生じたその余の費用を同被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金一五〇八万七五〇〇円及びこれに対する昭和五九年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告大起産業株式会社(被告会社)は、商品取引所法の適用を受ける商品取引所の市場における綿花、砂糖、金等各種商品の売買及び売買取引の受託等を目的とする会社である。そして、原告との後記取引当時、被告Y1(被告Y1)は被告会社の代表取締役であり、被告Y2(被告Y2)は被告会社松本支店(被告支店)長、被告Y3(被告Y3)は被告支店営業部次長、被告Y4(被告Y4)は被告支店営業部主任であったものである。

原告は、昭和四八年三月b高校(現在のb1高等学校)を卒業後、岐阜県高山市にあるa株式会社に就職し、昭和六二年まで同会社に勤務していたものである。

2  原告の被告会社に対する商品取引の委託

原告は、後記経緯により、昭和五八年五月一四日、被告会社に対し名古屋穀物商品取引所の商品市場における売買取引を委託し、別紙取引一覧表記載のとおり、同年五月一七日から同年九月一七日までの間、輸入大豆の売買を委託する先物取引が行われた(本件取引)。

3  本件取引の経緯

以下の月日は昭和五八年を、枚数は輸入大豆を、証拠金は委託証拠金を、また、取引名下の数字は別紙取引一覧表の建玉番号を示す。

(一) 五月一四日(土)

被告Y4は、午後三時ころ、原告の勤務先を訪れ、原告に対し「公務員をしているあなたの同級生から紹介されたんですが、投資する気はありませんか。パチンコをしても二、三万しかもうからないが、輸入大豆の取引は比べものにならないくらいもうかりますよ。」「大豆は、値段からみて今買い時だから買ってみませんか。四二〇〇円くらいの値段だから勧めるんです。高かったら怖くて勧められませんよ。」などと言って勧誘した。そして、最後には「私たち専門家に任せておいて下さい。うまくやります。」旨を付け加えた。

原告は、前記のように測量会社における土木測量の現場補助業務に従事していたものであって、商品取引の知識は全くなく、商品取引に関与したこともなかったので、輸入大豆先物取引についての被告Y4の話は、内容をよく理解できなかったものの、被告Y4の誘いにより被告会社に名古屋穀物商品取引所における商品取引を委託し、五枚(一枚は大豆六〇キログラム入りのもの二五〇袋)だけ買うことにした。

(二) 五月一七日(火)

原告は、被告Y4から電話で「安房峠が雨で通行止めのため、高山までいけないから銀行振込をしてもらいたい。」との指示に基づき、五枚分の証拠金三五万円を被告会社の銀行口座に振り込んで預託した(取引1)。

その際、被告Y4は「大起産業は普通二〇枚以上しか扱っていないんですが、あと一五枚どうですか。もうかる額が違いますよ。」と言って執ように勧誘した。原告は、もうかる額を強調の話に乗せられ、更に一五枚買うことを決めた。

(三) 五月一八日(水)

原告は、勤務先で被告Y4に一五枚分の証拠金一〇五万円を手渡した(取引2)。

(四) 六月二七日(月)

原告は、公衆電話で被告支店に電話をかけ、建玉の相場が買値より値上がりしていたので、「精算して証拠金等を返還して欲しい。」と申し出た。ところが、被告Y2、同Y3は、これに応じようとせず、利益金を証拠金に振り替え、更に多額の取引をするよう強引に勧めた。原告は、公衆電話のため長話もできず、仕方なく、被告Y3らに言われるとおりこれを承諾した(取引3)。

(五) 七月六日(水)

原告は、昼ころ、被告支店に電話をかけた際、被告Y3から「今日の午後商社売決算が多量に出るので、値段が下がる。」と切羽詰まったような様子で説明を受けたので、その対応策を尋ねた。すると、被告Y3は「追加証拠金(追証)がかかれば多額の金が必要になる。それが二、三日続くとどうしようもなくなる。」と言って、既に原告の手元に金がないことも知りながら、「一番の良策は売りを入れること。二倍の五〇枚。」と言ってこれを勧めた。

しかし、原告は、五〇枚分の証拠金三五〇万円の都合がつかないため、その旨を告げた。ところが、被告Y3は、「どうにかして三五〇万円都合しないと値段が下がって追証の連続だ。」「ちょっとの期間お金を用意できればいい。すぐ返せる。」「お金は九日まで待ってやるから、午後の一回目で売り五〇枚を入れときますよ。」などと言った。原告は、さきに預託した証拠金も大切だし、更に追証を出さなければならなくなるのも怖かったので、仕方なく被告Y3の言うとおりに従い、証拠金を預託しないで(無敷)取引をした(取引4)。

(六) 七月九日(土)

原告は、高山市農業協同組合大八支所から、三五〇万円を借り入れた上、これを売玉五〇枚分の証拠金として被告会社に差し入れた。

(七) 七月二〇日(水)

原告は、被告支店に電話すると、被告Y2から「今度の納会は大暴落するから売りだけにした方がよい。」と勧められたので、言われるとおりにした。また、被告Y2から「私のお客さんたちは、みんな九月限の売りだけですよ。」と言われたので、原告は、これを信じて、言うとおりにした(取引3、4の仕切り、取引5―1―1、2、5―2―1ないし3、5―3ないし5)。

(八) 七月二一日(水)

原告は、午前八時一五分ころ、自宅にかけてきた電話で、被告Y2から「今日の外電によるとストップ高で、国内もストップ高になりそうだ。一〇〇枚の買いを入れないとえらいことになりますよ。」「七〇〇万円出せば、それ以前に出した四九〇万円が取り戻せる。」「Xさんだから証拠金七〇〇万円は一週間後でよいから、金策して下さい。」などと言われた。原告は、「そんなこと言ったって、昨日、納会で大暴落するからと言って売りを勧めておきながら、今日は今日で買いを一〇〇枚入れよなんてひどすぎるではないか。」と文句を言ったものの、結局、被告Y2の言うとおり一〇〇枚の買いを入れることにした。

(九) 七月二二日(金)

原告が前日出していた買建玉一〇〇枚の注文が無敷のまま成立した(取引6)。

(一〇) 七月二五日(月)ころ

原告は、前記証拠金七〇〇万円を、再び高山市農業協同組合大八支所から借り入れた。

(一一) 七月二八日(木)

原告は、昼休みに公衆電話で被告支店に電話し、建玉の値段を聞いた。これに対し、被告Y2は、取引6の買玉を仕切り、直ちにその利益を加えて買玉を増やすように勧めた。原告は、被告Y2の言う意味がよく分からなかったが、被告Y2がうまくやってくれるだろうと考えて、言うとおりにした(取引7、8)。

(一二) 七月二九日(金)

原告は、被告Y2が証拠金七〇〇万円を受け取りに来たものの、これを手渡してしまうのが恐ろしかったので、「少しの損は仕方ない。全部決済してくれ。」と申し出た。しかし、被告Y2から「今やめてはだめだ。これから、どうやってでもばん回する。」などと長々と言われたため、右証拠金七〇〇万円を渡すに至った。

(一三) 八月二日(火)

被告Y3は、原告に対し、取引7、8の買玉合計一五七枚を決済し、取引9の買玉一八〇枚を建てることを勧めた。

(一四) 八月四日(木)

原告は、昼ころ、被告支店に電話した際、被告Y3から「今日も高いよ。一二月限の五〇枚を決済して一〇月限五五枚を買ったら。」と勧められた。原告は、仕事が忙しく、猛暑で正常な判断ができず、被告Y3のなすがままになっていた(取引9―1、10、11)。

(一五) 八月六日(土)

原告は、建玉全部を手仕舞いするため、被告支店に電話した。ところが、被告Y3から「今日は土曜日で取引が少ないから全部は無理だ。」「八月二日に建てた買玉一三〇枚を仕切り、新たに売玉六五枚を建てますよ。」と言われ、結局、被告Y3のとおりにするよりほかなかった(取引9―2、12)。

(一六) 八月八日(月)以降

原告は、被告らに「お金はこれ以上出せない。」と言って、追証がかかれば、建玉を決済して損の穴埋めをするようになり、被告Y2、同Y3らの言うがままにするしか方法がなかった(取引11、12の仕切り、取引13、14―1―1、2、14―2ないし5)。

(一七) 九月一七日(土)

原告は残りの建玉を全部決済した。

4  違法性

(一) 商品取引における顧客保護のため、商品取引所法(商取法)九四条、全国商品取引所連合会の定める取引所指示事項(指示事項)、又は全国商品取引員大会(昭和五三年三月二九日開催)における新規委託者保護管理協定に基づく被告会社の昭和五八年当時の新規委託者保護管理規則(管理規則)は、商品取引員の受託業務に関し、次の(1)ないし(9)を禁止事項として定めている。

ところが、本件取引は、勧誘行為を含め、次のとおりこれに違反している。

(1) 無差別電話勧誘(指示事項)

指示事項は、新規委託者の開拓を目的として、面識のない不特定多数のものに対し無差別に電話で勧誘をし、商品取引参加の意思がほとんどない者に無差別あるいは執ような勧誘を行うことを禁止している。

ところが、被告会社は、取引勧誘のため高校の卒業生名簿により、一面識もない原告の勤務先に電話をした。右勧誘は、卒業生名簿には、男女の別・年齢・勤務先程度の記載しかないから、商品先物取引に意欲をもっているとか、投機に的確な資金を持っているというような積極的参加適格を判断することはできず、一般の電話帳によって電話するのと同視できる程度の無差別と言うべきである。

(2) 投機性の説明の欠如(指示事項)及び断定的判断の提供(商取法九四条)

商取法九四条は、顧客に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して、その委託を勧誘することを禁じ、指示事項も、先物取引に関し、「投資」、「利子」、「配当」等の言辞を用いて、投機的要素の少ない取引であると委託者が錯覚するような勧誘を行うことを禁止している。

ところが、被告Y4、同Y3、同Y2は、次のとおり勧誘した。

① 被告Y4

被告Y4は、前記3(一)のとおり、パチンコと比べつつ「投資」という言葉で「比べものにならないくらいもうかる。」と言って勧誘した。これは、断定的判断を提供し、もうかることのみを強調したものである。

② 被告Y3

被告Y3は、前記3(五)のとおり、「ちょっとの期間お金を用意できればいい。すぐ返せる。」などと強調した。当時、原告は初めて追証に直面し、しかも、突然でその対処方法について無知であったから、被告Y3の右勧誘文言は断定的判断の提供になるし、投機性の説明の欠如でもある。

③ 被告Y2

被告Y2は、前記3(八)のとおり、「七〇〇万円出せば、それ以前に出した四九〇万円が取り戻せる。」などと言って勧誘した。これは、投機性の説明を積極的に隠し、かつ、取り戻せることの断定的な判断の提供である。

(3) 融資の斡旋(指示事項)

指示事項は、委託者の融資の斡旋を約して勧誘を行い、あるいは売買取引を継続させることを禁じている。

ところが、被告Y3は、前記3(五)のとおり、被告Y2は、前記3(八)のとおり、いずれも先物取引について借入れを勧め、取引を継続させている。

(4) 一任売買(商取法九四条)

商取法九四条は、商品市場における売買取引につき、価格、数量等について顧客の指示を受けないで受託することを禁じている。

顧客が真に自由な意思で取引をしたといえるための顧客に必要とされる最低限の知識は、①先物取引の基本的な仕組みを理解していること、②先物取引の危険性を理解していること、③商品及び価格変動要因についての知識があること、④専門用語を理解していること、⑤最低限必要な相場の技術(やり方)を知っていること、⑥投機に的確な資金かどうかを知っていることである。これらが欠けている場合、たとえ形式的には承諾していたとしても、実質的には一任売買である。原告は、本件取引の最初から最後まで右のような知識はなく、実質的な一任売買であった。このことは、本件取引がすべて成行注文であることからも明らかである。

(5) 両建玉(指示事項)

指示事項は、同一商品、同一限月について、売り又は買いの新規建玉をした後、又は同時に、対応する売買玉を手仕舞いせずに両建するよう勧めることを禁止している。

① 常時両建

被告Y3、同Y2は、前記3(五)ないし(一七)のとおり七月六日から九月一七日の本件取引終了まで、常に売りも買いもある状態(常時両建)を続けさせた。

② 因果玉の放置

被告Y3、同Y2は、取引5の売玉について、値上がり傾向にあるにもかかわらず放置したまま、取引6から11、13、14と巨大な両建をした。これは、引かれ玉(取引5)を手仕舞いせずに反対建玉(両建)を行い、その後の相場変動により利の乗った建玉のみを仕切り、短日時の間に再び反対建玉(両建)を行うものであり、両建を利用して委託者の損勘定に対する感覚を誤らせるものとして禁止されている。取引12は売玉であるが、手数料不抜けである。

(6) 無意味な反復売買(指示事項)

指示事項は、短日時の間における頻繁な建落の受託を行い、又は既存玉を手仕舞うと同時に、あるいは明らかに手数料稼ぎを目的とすると思われる新規建玉の受託を行うことを禁止している。

ところが、本件取引のうち、取引1、2から3への買直し、取引4から5への売直し、取引6ないし11、13、14の買直しは、短日時に次々と新規に建ててはすぐ仕切って精算するという取引である。これにより、手数料稼ぎをした。

(7) 過当な売買取引の要求(指示事項)

指示事項は、利益が生じた場合に、それを証拠金の増積みとして新たな取引をするよう執ように勧め、あるいは既に発生した損失を確実に取り戻すことを強調して執ように取引を勧めることを禁じている。

ところが、被告Y2、同Y3は、前記3(八)、(一六)のとおり、既に発生した損失を確実に取り戻すことを強調し、執ように取引を勧めた。

(8) 外務担当者等の交代(指示事項)

指示事項は、委託者に損失が生じた場合において、営業連絡不十分のまま、当該委託者に係る担当外務員又は社内における担当者等を交代させ、当該委託者に取引上著しい不便を及ぼすことを禁じている。

ところが、被告Y2、同Y3は、無責任な担当者の交代を繰り返した。

(9) 新規委託者に対する建玉枚数の制限超過(管理規則)

管理規則は、新規委託者(新たに取引を開始してから三か月未満の者)につき、同期間を保護育成期間とし、顧客カードを整備するとともに、受託枚数を原則として二〇枚を超えないことと定めている。そして、これを超える建玉の要請があったときは、管理規則の趣旨を十分説明した上、顧客カードの記載内容を調査するほか、商品取引に関する知識、理解度を勘案し、必要に応じて顧客から直接事情を聴取して判断し、過大にならないよう適正な数量の取引にとどめるものとし、その承認にあたっては、妥当と認められる枚数を明確にし、その範囲において受託を指示し、その後、妥当と認める枚数を超える要請があったときは、その理由に留意し、極力変更は行わないこととされている。

ところが、取引3は、原告の初取引受託から四一日しか経過していないのに、新規建玉が二六枚であって、最高時(八月四日)で合計二五一枚、約定総代金が三億円弱という巨大なものになっており、被告会社におけるチェックは極めてずさんなものであった。すなわち、顧客カード(乙一三)は、被告Y4が原告の資産、収入状況及び投下可能資金について全く聴取せず、被告Y4の独自の判断で内容虚偽の事実が記入されているし、被告会社相談室長Aが原告を訪問して調査しているにもかかわらず、その虚偽事実は訂正されていない。そして、「原則以上の建玉調査」(乙一四の1ないし5)の決済者である被告Y2は、右顧客カードの記載を前提に、原告が宅地、農地、山林等を所有していることを重視し、その取引可能枚数を判断して、六月二七日に三〇枚、七月六日に一〇〇枚、同月二二日に二〇〇枚、同月二八日に二五〇枚、八月四日に三〇〇枚と次々に建玉枚数の増加を許可している。

(二) 向かい玉の存在

被告会社は、八月一一日から九月初めまで、九月限の玉について、原告の売り注文と利害の相反する買い注文を建てていた(向かい玉の存在)。これは、二種類の向かい玉、すなわち全量向かい玉と差玉向かい玉のうちの後者である。差玉向かい玉とは、委託者の玉が向かい合う形になって売玉と買玉との差が発生した場合に、その差について自己玉で向かう形である。そして、そのうちで、(1)その差の全量に向かうもの、(2)その差の一定割合(九割)に向かい玉を建てて、残りの玉(一割)を場にさらすものの二つがあるが、被告会社のそれは後者である。後者の差玉向かい玉の場合、向かい玉を建てた一定割合については場勘定が発生しないから、その分については取引所との金銭授受がなくなる。そして、場にさらした残りの玉が売玉であれば、売りが多く出て値が下がり九割分に向かった自己玉(買玉)に有利になるし、逆に場にさらした玉が買玉であれば、買いが多く出て値が上がり九割分の自己玉(売玉)に有利な相場変動となる。すなわち、委託された玉の損失によって、自己の向かい玉が利益を得ることになるから、利益相反行為である。

(三) チェックシステム違反

(1) 農林水産省は、平成元年四月一日から「委託者売買状況チェックシステム」を導入した。これは、次のような取引を特定売買とみなし、これらについての売買比率を全体の二〇パーセント以下に指導するというものであって、右特定売買に該当する取引方法が従前から危険な取引であって望ましい取引ではないことをチェックシステムの導入という形で明確にしたにすぎないものである。

① 売り又は買直し(既存建玉を仕切るとともに、同一日内で新規に売直し又は買直しを行っているもの。異限月を含む。)

② 途転=ドテン(既存建玉を仕切るとともに、同一日内で新規に反対の建玉を行っているもの。異限月を含む。)

③ 日計り=同一日建落(新規に建玉し、同一日内に手仕舞いを行っているもの。

④ 両建玉=含他限月、除特定取引の両建(既存建玉に対応させて反対建玉を行っているもの。ただし、売り買い対応の建玉が同一枚数の場合を指すが、対応する建玉が不一致の場合、順次建玉を増加させたときは、同枚数及び同枚数を超えることとなるまで、その都度両建玉として取り扱い、同枚数を超えたとき及び逆に分割落しによって建玉を減じたときは両建玉から除く。)

⑤ 手数料不抜け(売買取引により利益が発生したものの、当該利益が委託手数料より少なく、差引損となっているもの。)

(2) 本件取引は、すべて特定売買に該当し、当時にあっても危険で望ましくない取引であった。

① 取引1、2から3への買直しが行われている。

② 取引3と4は両建、両建の同時仕切りである。

③ 取引4から5への売直しが行われている。

④ 取引5に対し、取引6ないし11、13、14が両建となっている。

⑤ 取引6ないし11、13、14は買直しに該当する。

⑥ 取引10、11に対して、取引12は両建である。

⑦ 取引4、12は手数料不抜けである。

(四) 詐欺ないし社会的に相当でない詐欺的行為

被告Y2、同Y3、同Y4は、共謀の上、原告に対し、あたかも利益が確実に得られることのみを強調してこれを繰り返し、また、いったん損失が生じたらその損失を確実に取り戻すことができることのみを強調し、これを繰り返して執ように取引を勧め、被告会社が顧客の利益のために行動する通常の商品取引員であるかのように装い、その旨誤信させて、原告から証拠金名下に、五月一七日、同月一八日、七月九日、同月二九日の計四回にわたり合計一一九〇万円の現金の交付を受けてこれを騙取した。

(五) 背任ないし社会的相当でない背任的行為

(1) 被告Y2、同Y3は、証拠金受領後、外務員として顧客に対する善良なる管理者の注意義務を負っているから、顧客に短期間の手数料負担の累積増大を告知し、そのような取引を回避すべき注意義務があるにもかかわらずこれに背き、両建の繰り返しを中心とした売買を頻繁に行い、原告に財産上の損害が生ずることを認識しながら、被告会社に委託手数料の利得が発生するよう頻繁に売買を行い、委託手数料約五九一万円を徴取し、原告に損害を与えるとともに被告会社に利得させた。

(2) 外務員は、相場変動に関する適切な情報を顧客に提供し、また、自己玉が顧客の因果玉と利害の相反するポジションをとっていることを告知すべき信義則上の義務があるのに、被告Y2、同Y3は、これに背き、漫然と放置すれば原告に財産上の損害が生じるかもしれないことを認識し、かつ、原告に損害が生じたときは、被告会社の自己玉によって右損害相当額を被告会社が利得する意図のもとに、八月一一日から九月一七日まで、九月限の値上がりについて適切な情報等を提供せず、取引5、14の両建玉を漫然と放置し、自己玉のポジションにつき何ら告知せず、もって、原告に約七〇〇万円相当の損害を与え、他方、被告会社は同額相当の利益金を得た。

5  被告らの責任

(一) 被告らは、いわば会社ぐるみで、故意に前記4の違法行為を行い、後記6の損害を発生させたから、民法七〇九条、七一九条一項による不法行為責任がある。

(二) 右責任が認められないとしても、被告Y2、同Y3、同Y4は、過失により前記4の違法行為を行い、後記6の損害を発生させたから、民法七〇九条、七一九条一項による不法行為責任がある。

(三) 被告会社は、昭和五八年当時、被告Y2、同Y3、同Y4を従業員として雇用している使用者であるが、右従業員らは、被告会社の商品先物取引の勧誘等について、前記4の不法行為により原告に後記6の損害を与えたのであるから、民法七一五条一項による使用者責任がある。

(四) 被告Y1は、昭和五八年当時、被告会社の代表取締役として、被告Y2、同Y3、同Y4らを選任監督する地位にあったから、民法七一五条二項による代理監督者の責任がある。

6  損害

(一) 財産的損害 一一〇九万七五〇〇円

原告は、被告会社に対し、五月一七日の初取引から九月一七日の手仕舞いまでの間、本件取引の証拠金として合計一二六〇万円の現金を預託した。

原告は、このうち一五〇万二五〇〇円の返還を受けたから、残額一一〇九万七五〇〇円が財産的損害となる。

(二) 精神的損害 二〇〇万円

原告は、被告Y2、同Y3、同Y4らの不法行為によって右のような巨額の損害を被り、以来、仕事も手につかず将来の生活設計も根底から破壊された。この精神的苦痛を金銭に換算すれば、二〇〇万円を下ることはない。

(三) 弁護士費用 一九九万円

原告は、被告らが原告の損害賠償請求に応じないため、原告訴訟代理人弁護士に本件訴訟の追行を委任せざるを得なかった。右弁護士費用としては、日本弁護士連合会報酬等基準による一九九万円を下ることはない。

7  よって、原告は被告らに対し、各自損害賠償金一五〇八万七五〇〇円及びこれに対する不法行為後の昭和五九年八月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因事実1は認める。

2  同2は、後記経緯によりとある点はさておき、認める。

3(一)  同3(一)五月一四日のうち、被告Y4が、同日、原告の勤務先を訪問し、輸入大豆の先物取引を勧誘したこと、その結果、原告主張のとおり、原告が被告会社に商品取引を委託したことは認めるが、原告が商品取引に関与したことがないことは知らないし、その余は否認する。

原告は、昭和四八年に測量士補の資格を取得し、a株式会社に在職中は、現場責任者あるいは現場代理人として責任ある業務に従事していたものである。

被告Y4は、後記4(一)(1)のとおり、電話で原告に面談を申し込み、その勤務先を訪問して商品先物取引の基本的な仕組みや内容を説明し、「商品取引のしおり」を読み上げ、かつ、「商品取引ガイド」も交付してより詳しい説明をした結果、原告は、商品取引がリスクのある投機であることを十分理解した上、原告自身の判断に基づき、積極的に商品取引を被告会社に委託するに至ったものである。

(二)  同(二)五月一七日のうち、原告が五枚分の証拠金三五万円を被告会社の銀行口座に振り込んで預託したこと、取引1は認めるが、その余は否認する。

被告Y2は、右証拠金の入金を確認した上、同日午前一〇時五〇分ころ、原告に電話をかけ、次の立会(前場三節)の成行で一〇月限五枚を注文することについて確認を取った上、これに基づく注文をし、取引1が成立したものである。

なお、原告に一五枚の買い注文を勧めたのは被告Y2であって、その日時は五月一八日である。その際、被告Y2は、「大起産業は普通二〇枚以上しか扱っていない。」というようなことは言っていない。

(三)  同(三)五月一八日のうち、取引2は認めるが、その余は否認する。

右取引は、被告Y2が関与したものである。すなわち、被告Y2は、五月一八日午後二時ころ、原告からの電話で、値段の動き等を尋ねられたので、これを説明したほか、「まだ相場が上がりそうだ。」と自分の相場観を話し、「証拠金一〇五万円を追加し、あと一五枚買いを加えたらどうか。」と勧誘した結果、「じゃ、それでいい。」と言われて、右注文の委託を受けた。そこで、被告Y2が、「右一五枚分の証拠金一〇五万円はいつまでに払えるか。翌日までには入金していただきたいが。」と尋ねたところ、原告から「翌日までには支払える。」との返答があったので、同日午後二時から始まる後場二節で前記五枚と同じ一〇月限の一五枚の買い注文を出した。そして、翌一九日、原告から右一五枚の証拠金一〇五万円の入金があったものである。

そこで、被告Y2は、五月一九日、前同様原告の確認を得て注文し、取引2が成立したものである。

(四)  同(四)六月二七日のうち、原告が被告支店に電話をかけてきたこと、取引3は認めるが、その余は否認する。

被告Y3は、当日昼すぎ、原告から電話を受けたので、そのときの相場と予想を説明した上、現在の建玉一〇月限二〇枚を仕切り、その差益金を証拠金に振り替えて、その分一一月限の買付枚数を増やすことを勧めた。その結果、原告はこれを承諾した。そこで、被告Y3は被告支店長の被告Y2あてに、原告の取引枚数が新規客の原則建玉数を上回るについて許可を求め、同許可を得た上、後場一節で一〇月限二〇枚の仕切売付注文をし、その仕切決済による差益金四三万七五〇〇円から追加証拠金として六枚分四二万円を振り向け、一一月限二六枚の新規買付注文をし、取引3が成立したものである。なお、右差益金の残金一万七五〇〇円は、翌二八日、被告Y3が原告のもとに持参し、これを手渡した。

(五)  同(五)七月六日のうち、原告から同日昼ころ被告支店に電話があって被告Y3が応答したこと、取引4は認めるが、その余は争う。

被告Y3は、右電話で「新聞情報によると、アメリカの前年度の旧穀物在庫が記録的に増えたということなので、目先少し下がりそうだ。」「現在建っている一一月限の買玉二〇枚が、旧穀物の値下がりにつられてこのまま値下がりすると、損が出て追証が必要となることも考えられる。」「現在の一一月限の買玉を仕切る方法もある。」と説明した。これに対し、原告は、「一一月限二〇枚の買玉を仕切決済して損を確定してしまうことは避けたい。」との意向を示し、今後の見通しについて質問した。そこで、被告Y3は、「本年度大豆は減産予想なので、新穀物の一一月限は、先行きかなりの値上がり見込みである。」「したがって、目先値下がりしそうな旧穀物の一〇月限に五〇枚の売りを建てて、目先の利益を取ってみてはどうか。」「一〇月限の売りを五〇枚建てておけば、相場の値下がりがあっても、一〇月限については値洗い益となるため、全体の値段は損にはならないから、追証は必要とならない。」などと説明した上、目先の値下がり予想に対する対応策として、証拠金三五〇万円を追加し、一〇月限五〇枚の新規売り注文を勧めた。その結果、原告は、右新規売り注文をするに至った。そこで、被告Y3は、「右証拠金三五〇万円をいつ支払えるか。」と尋ねたところ、「週末の土曜日(七月九日)までには用意できる。」とのことで、原告がそれほど資金的に無理をしていない印象を受けたので、右五〇枚の売付注文を受けることとした。ところが、右新規注文をすると、原告の建玉数が七六枚となって、既に許可済みの三〇枚を超えるので、被告支店長の被告Y2あてに、原告の建玉数を一〇〇枚以内までに増加するについての許可を求め、同許可を得た。そこで、後場一節で一〇月限新規売付注文をし、取引4が成立したものである。

なお、被告Y3は、当日夕方、原告に会って、右両建について説明し、今後の見通しと売買の仕方についても説明した。

(六)  同(六)七月九日のうち、原告が売玉五〇枚の証拠金として三五〇万円を被告会社に差し入れたことは認めるが、その余は知らない。

(七)  同(七)七月二〇日のうち、被告Y2が原告からの電話を受け、「今度の納会は下げそうだから、売った方がよいのではないか。」と勧めたこと、取引3、4の仕切、取引5―1―1、2、5―2―1ないし3、5―3ないし5は認めるが、その余は否認する。

被告Y2は、七月二〇日午前一〇時三〇分ころ、原告からの電話で、前日の値動きと当日第一回立会(前場二節)の値段を尋ねられたので、前日の値動きとして、一〇月限、一一月限を含め全限月とも値下がりしたことと、前場二節の成立値段を伝えた。そして、当日の日経新聞朝刊紙上に、輸入大豆に関して「二七日当ぎり(限)納会を前に、中国産大豆の供給過剰感は強まる一方で、全国港頭在庫が七万トンを大幅に超え、シカゴ高とはいえ、買い方としても強気になれない状況」などと書かれた記事内容を説明し、(1)このような状況から考えると、(七月二七日の)納会は値下がりが見込まれること、(2)その中でも、旧穀物で一〇月限よりも期近のものの方が、より値下がりが大きいと見込まれること、(3)したがって、現在一一月限二六枚の買玉と一〇月限五〇枚の売玉を仕切って、もっと値下がりの大きそうな九月限一本に切り換えた方が、得られる利益が大きいのではないか、といった相場観を話した上、原告に対し、一一月限二六枚の買玉と一〇月限五〇枚の売玉の仕切決済をし、それによって残った資金を証拠金として九月限の新規売付注文をすることを勧めた。その結果、原告もこれを承諾した。

右取引には新たな原告の出資金は必要なかったので、被告Y2は、次の立会(前場三節)で、一一月限の買玉二六枚と一〇月限の売玉五〇枚の各仕切注文をするとともに、同仕切決済による差損金計六四万円を、従前の預かり証拠金残高計五三二万円から差し引くと四六八万円になり、これを一枚当たり七万円の証拠金として使うと六六枚分(証拠金四六二万円)の注文ができるので、同場節で九月限六六枚の新規売付注文をした。したがって、取引3、4の仕切、取引5は原告自らの判断に基づくものである。

(八)  同(八)七月二一日のうち、被告Y2が原告に電話で、「今日の外電によると、ストップ高で、国内もストップ高になりそうだ。」と相場予想を述べたこと、原告が、被告Y2に、一二月限一〇〇枚の新規買付注文をしたことは認めるが、その余は否認する。

被告支店は、七月二一日朝、本社からの外電情報で、シカゴ大豆がかんばつ予想でストップ高となった旨伝えられ、しかも、国内でも、同日朝の名古屋穀物商品取引所の第一回立会(前場二節)で、当月(七月)限以降の全限月が軒並み一五〇円高のストップ高となった。そのため、原告が建てていた九月限売玉が四二一〇円にまで値上がりしてしまい、証拠金の半額相当の値洗い損が出て、追証が必要となる限界に達した。そこで、被告Y2は、右九月限売玉六六枚の処理につき、原告と連絡を取ろうとしたものの、次のように原告から電話があるまで連絡が取れなかった。

被告Y2は、同日午後四時四〇分ころ、原告からの電話で、値動きなどを尋ねられたので、前記のような相場急騰の事実を告げ、追証が必要となるすれすれのところまで来ていることと、明日もストップ高になりそうだとの見通しを話した。そして、原告からその対応策と今後の見通しについて質問も受けたので、(1)追証を入金する方法、(2)仕切決済をして損を確定する方法(損切り)、(3)翌日ストップ高になっても追証が必要とならないような枚数の買玉を建てる(いわゆる両建をする。)方法をそれぞれ説明した。そして、原告が「損切りしたくない。」との意向が強かったので、両建を説明した上、(4)翌日また一五〇円のストップ高となった場合、現在の九月限の売玉枚数六六枚と同じ枚数だけの買いを建てるのでは、翌日の値洗い損見込み額四七八万五〇〇〇円が売玉、買玉計一三二枚分の証拠金額九二四万円の半額四六二万円を上回ることが明らかであって、追証が必要となる状態を抜けることはできないから、買玉は一〇〇枚にしておいた方がよいのではないか。そうすれば、翌日ストップ高になっても追証が必要となることはないだろうということ、(5)買玉を建てて両建をするとしても、値段が急騰した理由が、アメリカ大豆の熱波という天候異変での不作予想であり、こういった要因で値上がりの影響を一番受けやすい、すなわち、最も値上がりが大きいと見込まれるのは、新穀物で一番期先の一二月限だから、一二月限のものを買った方がよいのではないか。そうすれば、今後旧穀物の九月限と新穀物の一二月限とでは値動きが異なってくる見込があり、両者間の値開き(値鞘)が今よりも大きくなることが予想され、一二月限の買玉の枚数の方が多いから、原告の建玉全体では、現在の損失を回復して利益を増やしていける見込みがあるということなどを説明した上、原告に一二月限一〇〇枚の新規買付注文を勧めた。

原告は、被告Y2の右説明を聞き、「仕切決済して損を確定してしまったり、追証を入金して建玉を維持するよりは、右新規買付注文をしたい。」との意向を示した。被告Y2は、原告が、七月二〇日に九月限売玉六六枚に一本化した際、仕切決済による精算金四六八万円から六六枚分の証拠金に振り向けた四六二万円を差し引いた残金六万円が残っていたので、原告に対し、「右一〇〇枚分の証拠金七〇〇万円を作るには、あと六九四万円必要だが、いつまでに入金できるか。」と尋ねた。すると、原告は、「一週間くらいあればできる。」とのことであったので、「できる限り早めに入金するように。」と依頼し、結局、原告から翌二二日前場二節(第一回立会)の場節指定で、一二月限一〇〇枚の新規買付注文委託を受け、後記取引6が成立したものである。なお、被告Y2は、右受注により、原告の総建玉数が一〇〇枚を超えることになるので、決済権者としてこれを二〇〇枚以内まで許可した。

(九)  同(九)七月二二日は認める。

(一〇)  同(一〇)七月二五日は知らない。

(一一)  同(一一)七月二八日のうち、原告主張のとおりの電話に被告Y2が出たこと、取引6の仕切り、取引7、8は認めるが、その余は否認する。

被告Y2は、同日午前九時ころ、原告から被告支店に電話が入ったので、その電話に出て相場の値動きを説明した上、(1)前日(七月二七日)の日経新聞紙上に輸入大豆に関する記事として、中国産大豆の追加商談がまとまり、期先限月(一二月限)に商社のヘッジ売りが入ってくるだろうと報ぜられ、期先の値上げ幅が少なくなる見込みにあること、(2)当時、大阪市場で一〇月限について仕手戦が行われていて、期先の一二月限よりも一〇月限の方が値上げ幅が大きくなりそうだということ、(3)前日の大引値で計算すると、一二月限一〇〇枚の買玉を仕切れば証拠金四六枚分余りの差益が出るので、一〇月限一四六枚に買直しができるということの説明もして、一二月限一〇〇枚の買玉を仕切決済して一〇月限一四六枚の新規買付注文を勧めたところ、原告もこれを承諾した。なお、被告Y2は、右勧誘の際、原告に対し、「既に建っている九月限六六枚の売玉に損が出ており、相場全体が上昇傾向にあるので、建玉全体としては利益が出ている。この段階で、右売玉も仕切決済して買い一本にした方がいいのではないか。」と勧めたが、原告の意向が、売玉を仕切決済して確定した損を出すことを嫌がったので、右意向に沿って前記新規買付注文を執行し、取引7が成立したものである。

被告Y2は、同日午前一〇時三〇分ころ、原告から右注文確認の電話を受けたので、右取引成立の報告をし、一二月限が当初の計算より三〇円高く売れたことも連絡した。その結果、原告に予想よりも多い利益が発生し、まだ一一枚分の新規買付注文ができるため、更に「一一月限を一一枚新規買付注文してはどうか。」と勧めたところ、原告はこれも承諾した。そこで、被告Y2は、次の立会(前場三節)で、右注文を執行し、取引8が成立したものである。

(一二)  同(一二)七月二九日のうち、被告Y2が原告のもとへ取引6の証拠金の集金に赴いたことは認めるが、その余は否認する。

被告Y2が、原告から受領した右証拠金は現金六九三万円である。すなわち、被告Y2は、七月二九日、原告のもとに取引6の証拠金の集金に赴いたが、この時点で、同月二八日の一二月限一〇〇枚の仕切決済(取引7)による益金四〇〇万円は、買増分四六枚と追加注文一一枚分計五七枚分の証拠金に振り向けた三九九万円を差し引き一万円の残金があった。そこで、右集金の証拠金は、六九四万円から右一万円を差し引いた六九三万円で足りるため、原告から現金六九三万円を受け取ったものである。

(一三)  同(一三)八月二日は認める。

(一四)  同(一四)八月四日のうち、原告から被告支店に電話があったこと、電話に出た被告Y3が、原告に一二月限の五〇枚(取引9―1)を仕切り、一〇月限五五枚の新規買付注文を勧めたこと、原告がこれを承諾したことは認めるが、その余は否認する。

被告Y3は、八月四日後場一節、二節の各立会中(午後一時から一時三〇分ころまでと、午後二時から二時三〇分ころまでの間)、原告から電話を受けたので、「相場がなお上昇している。」と当日の価格の推移を伝えながら、「一二月限の買玉を仕切決済して、その利益金で割安な一〇月限を買い増しし、売玉との枚数の差をもっと広げてはどうか。」と勧誘の上、原告主張の前記取引をするに至ったものである。

(一五)  同(一五)八月六日のうち、原告から被告支店に電話があったこと、電話に出た被告Y3が、取引9―2の買玉一三〇枚を仕切り、新たに一月限の売玉六五枚(取引12)の注文をした方がよいと勧め、原告がこれを承諾し、右取引をしたことは認めるが、その余は否認する。

被告Y3は、八月六日前場二節の立会中、原告から電話を受けたので、(1)前日(八月五日)に相場が急落し、下げ相場の様相も見えてきたこと、(2)右急落により、原告の建玉に大きな値洗い損が出て、追証を入れる必要が生じたこと、(3)右追証を抜くためには、値洗い損の大きい一二月限の買玉一三〇枚(取引9―2)を仕切った方がよいこと、(4)今後なお相場が下がる予想もあり、相場の変動に対処し、かつその中で追証がかからないようにする方法として、今度は売玉の枚数が買玉の枚数より多い、いわゆる売越しの両建状態にして、バランスを取りながら相場の動きについていく方法があるため、新たに売建てを追加したらどうかなどと説明した上、一二月限の買玉一三〇枚(取引9―2)を仕切り、一月限六五枚(取引12)の新規売付注文をすることによって、売越しの状態にすることを勧めた。原告は、右追証を出すことを嫌がり、被告Y3の勧める方法を選択、採用することとし、右各注文をしたものであって、原告の意思に基づき取引9―2、12が行われたものである。

(一六)  同(一六)八月八日以降のうち、取引11ないし13、14―1―1、2、14―2ないし5は認めるが、その余は否認する。

右各取引は、原告が被告Y3、同Y2の説明を聞き、勧誘に応じてこれを承諾したので、これに基づき注文を執行したものである。

(一七)  同(一七)九月一七日は認める。

被告Y2は、九月一七日、原告から電話で建玉全部の決済を求められ、決済するに至ったものである。

4(一)  同4(一)のうち、原告主張のような商取法九四条、指示事項、管理規則が存在することは認めるが、その余は争う。

(1) 無差別電話勧誘は争う。

無差別電話勧誘を禁止している趣旨は、電話勧誘における問題点が、相手方の都合も考えず執よう、かつ、無差別であることから、社会的通念上、相手方に迷惑となる電話(時刻、時間、頻度)を禁止するものである。

被告Y4は、五月一〇日ころ、原告出身高校の卒業者名簿から一定基準で抽出の原告に、面談約束を得るため、昼間勤務先に電話し、先物取引の説明を聞く意思があるかどうかを打診した。これに対し、原告が「昼休みなら話を聞いてみようかな。」と関心を示したので、訪問の約束をしたものである。したがって、社会通念上、相手方の迷惑となる電話(時刻、時間、頻度)ではない。そして、被告Y4は、同月一二日ころ、原告の勤務先を訪問し、昼休み時間に商品先物取引についての説明をした。その結果、原告に関心のあることが分かったので、再び五月一四日電話で右取引を勧誘し、原告に取引の意思があることを確認できたので、改めて同日原告と面談し、「商品取引のしおり」を読み上げ、かつ、「商品取引ガイド」を交付し、更に詳細な取引の仕組みなどを説明した。かくて、原告は被告会社に商品取引を委託し、その旨の書面を差し入れたものである。

以上のように、被告Y4の勧誘方法は社会的にも許容されるものであり、何ら違法ではない。

(2) 投機性の説明の欠如及び断定的判断の提供は否認する。

仮に被告Y4が原告に対する電話で「投資」という言葉を用いたとしても、被告Y4は、その後、原告を訪問し、「商品取引ガイド」「商品取引委託のしおり」などのパンフレットを示しながら、商品先物取引が投機であることを説明し、原告もこのことを理解した上で、注文がなされたものである。

(3) 融資の斡旋は否認する。

(4) 一任売買は争う。

原告の主張の根本には、顧客が、外務員の相場観や取引についての助言・提案を聞き、その助言・提案どおりに取引するような場合は、顧客の意思に基づく取引とはいえない、あるいは実質的な一任売買に該当するとの考えがあるように見受けられる。しかし右のようなやり方も顧客が自由に選択する売買手法の一つであり、投機取引をするにあたっての意思決定の一形態であるから、これを顧客の意思に基づかない実質的な一任売買であると非難するのは誤りである。

被告会社の外務員は、客から売買の委託注文を受ける際、限月、枚数を確認するほか、成行、場節についても確認を取っている。そして、売買の取引が成立が成立したときは、その都度、被告会社は客あてに商品の種類、限月、売付又は買付の区別、新規又は仕切の区別、売買枚数、総約定金額、約定値段、売買取引の成立日、場節を記載の「委託売付・買付報告書及び計算書」を送付している。本件取引も、すべて原告にかかる確認を取って受注し、右報告計算書を送付していたが、原告から異議が出たことは一度もなかったのであるから、これを一任売買というのは当たらない。

(5) 両建玉は否認する。

原告は、限月の違いを考慮に入れず、同一委託者が売玉と買玉を持っているのをすべて両建だというが、これは誤りである。

受託業務の基礎知識において、両建玉として禁止されているのは、①売りと買いを同一日に建玉したもの(同時両建)については異なる限月を含む、②因果玉の放置については同一限月のものを短時日の間に利の乗った建玉のみを仕切り、再び反対建玉(同一限月の両建)を行っているもの、③常時両建については、同一限月の両建が常時行われているもので、かつ、委託者の損勘定に対する感覚を誤らせることを意図したと認められるもの、だけである。

本件取引は、右①ないし③のいずれにも該当せず、それよりは、もっと顧客にとり有意義なもので、異なる限月間のさやの伸縮を利用した最も好ましい取引である。

(6) 無意味な反覆売買は否認する。

受託業務指導基準(全国商品取引所連合会が各取引所の指導監査を実施する際の手引書として作成されたもの・指導基準)において、売買にあたって禁止している無意味な反覆売買は、①既存建玉を仕切ると同時に新規に売直し、又は買直し(同一限月及び異なる限月を含む。)、②同一計算区域内において、委託手数料を考慮していないと思われる建て落ちを繰り返しているもの、③既存建玉を仕切ると同時に新たに反対の建玉(同一限月及び異なる限月を含む。)を繰り返しているもの、が挙げられているが、それは、「なお、委託者の取引経験、値動き、平均建玉日数、手数料損金比率等を参酌し、判断する必要がある。」とされている。

本件取引は、①近年みれに見る異常気象により、毎日の価格変動が激しく、新穀物生産量の激減予想のもとで、度重なる旧穀物の輸入が促進されていた状況下にあったこと、②このような情勢下において、原告の取引は市況と同一方向を模索していたこと、③営業マンが勧めても原告の意思が売買に至らなかったことも多くあったこと、④実際に成立した売買建玉の平均建玉日数は一〇・一日であって、相場が異常な乱高下をしていた状況で、平均一〇日以上の間隔がある緩やかなものであったこと、⑤手数料損金比率でも、各売買は次のとおり手数料を差し引いても、合計八四二万七五〇〇円(六月二七日 四三万七五〇〇円、七月二八日 四〇〇万円、八月二日 三六一万五〇〇〇円、八月四日 三七万五〇〇〇円)の利益があったこと、⑥本件取引は、右のような価格変動の激しい時期において、その時々の相場の見通しと原告の置かれた環境などから合理的な理由に基づき選択、決定されたものであったことを総合すれば、これが無意味な反覆売買ではなく、手数料稼ぎのためのものでもないことが明らかである。

(7) 過当な売買取引の要求は否認する。

(8) 外務担当者等の交代は争う。

指導基準には、「外務員、担当者の交代を禁ずるのは、委託者の損失等を機に外務員又は担当者を故意又は必要以上に交代(転勤を含む。)させ、委託者に対する営業連絡の不徹底及び担当者不在理由による委託者からの指示回避等の行為を禁止する趣旨である。」とされている。

本件取引において、「故意」又は「必要以上に」担当者を交代させたことはなく、むしろ、連絡はほとんどが原告本人からで、被告Y2、同Y3がこれに懇切丁寧に応対していたものであって、不在理由による指示回避等も全くない。

(9) 新規委託者に対する建玉枚数の制限超過は争う。

① 管理規則は、商品取引員の社会的な地位の向上と業界の発展を指向し、自らの手でまとめあげた自主的な措置であって、法規範性を有するものではなく、したがって、社会通念上妥当な範囲を著しく逸脱しない限り違法性の問題は生じない。

② 委託枚数の管理基準についての判断は、被告会社取引相談室長Aが顧客カードの記載内容を調査し、かつ、原告と面接して具体的に精査した結果を、被告支店の管理責任者である被告Y2に伝え、被告Y2も、原告との話のやりとりの中から商品取引に関する知識、理解度を勘案の上、判断しているものである。

(二)  同(二)のうち、被告会社が原告主張の向かい玉を建てていることは否認する。

(三)  同(三)のうち、チェックシステム違反は争う。

「委託者売買状況チェックシステム」は、商品取引所会員の自治規程(農水省は、右チェックシステムについて規制措置としての位置付をしていない。)として実施されているものであるが、本件取引当時、導入されていたものではなく、のみならず、現実に実施の同チェックシステムは、特定売買についての各市場ごとの商品取引員の総体比率を、全取引員の加重平均と対比して三段階のランク付で判定するだけのものであて、個々の特定売買の是非を論ずるものではない。

(四)  同(四)は否認する。

(五)  同(五)は否認する。

被告Y2、同Y3は、その時々における新聞情報等を基にして、原告に最新の情報、相場の予想等を提供しているし、九月限の売玉についても、被告Y2は七月二八日からその仕切りを助言しており、漫然と放置していたわけではない。また、自己玉が顧客の玉と相反するポジションをとっていることを告知する義務はないし、向かい玉の損得と顧客の損得との間には、一方が利得すれば他方が損失を被るといった相反関係にはないし、相当因果関係もない。

5  同5は争う。

6  同6のうち、原告主張のとおり、被告会社が証拠金の預託を受けたことは認めるが、その余は争う。

右証拠金のうち、被告会社が原告に返還した分は一五七万円である。

三  抗弁

仮に、被告らに原告主張のような違法行為があったとしても、原告にも損害の発生、増大について、次のような過失があったから、相当の過失相殺がされるべきである。

原告は、大手優良の測量会社の測量士補の資格を有する現場責任者として勤務し、大豆の知識もあって、損益計算にたけている者である。そして、被告Y4から数回にわたって商品先物取引のしくみ等の説明を受け、更に「商品取引委託のしおり」等の交付も受けているのであるから、先物取引が投機性が高く時には大きな損害を被ることがあることは容易に理解できたはずである。

しかも、被告会社は、本件取引について、その都度、原告に売買報告書を送付していたのであるから、原告は損害の発生を容易に知り得べきであったのに、これを怠った。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

本件においては過失相殺を認めるべきではない。すなわち、本件のように故意の不法行為に過失相殺をすることは、欺まん的取引のやり得を許し、不法な利得を正当化することになるから、許されるものではない。仮に、本件が過失の不法行為であるとしても、この種の欺まん的取引においては、専門家である外務員の注意義務違反に比べれば、素人である委託者の過失は程度が非常に軽いから、過失相殺を認めることは損害の公平な分担にならない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び承認等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当事者と原告の被告会社に対する商品取引の委託

請求原因事実1、2(ただし、本件取引の経緯を除く。)は当事者間に争いがない。

二  本件取引の経緯

証拠(甲一、二の1ないし5、七、二三、二四、二五の1、2、三〇の1、2、乙一ないし五、八の1ないし7、九の1ないし5、一〇の1ないし4、一二の1、2、一三、一四の1ないし5、一七の1ないし5、一八の1ないし7、一九の1ないし7、二〇の1ないし37、三〇、三一、三四、三五、三六、三七の1ないし19、三九、五二、五三の1、2、六一、六五の1ないし10、六八、七六、被告Y4、同Y3、同Y2、原告、弁論の全趣旨)を総合すると、以下の事実が認められる。

1  昭和五八年当時、被告支店における社員数は支店長以下一〇名であり、そのうち営業関係に従事していたのは支店長(被告Y2)、次長(被告Y3)、課長一名、主任二名(被告Y4外一名)、社員二名の計七名であって、他は内勤女子社員二名と運転手一名であった。そして、被告支店では、毎日社員が集まって朝礼が開かれ、被告Y2は支店長として商品取引に関する各種の指示、情報、連絡等をしていた。

2  被告Y4は、五月一〇日ころ、商品取引の顧客を勧誘するため、被告支店備え付けのb高校の卒業生名簿により、その営業区域に属する原告の勤務先であるa株式会社に電話し、「商品取引の内容の説明に回っているので、ちょっとお会いできないか。」と言ってその意向を打診した結果、勤務先の昼休み時間に訪問することで原告の了解を得た。

そこで、被告Y4は、同月一二日午後〇時三〇分ころ、原告を右勤務先に訪ね、商品取引の概略ないし注意事項をわかり易く記載の「商品取引ガイド」を手渡して、被告会社が輸入大豆の先物取引を扱っていること、先物取引が六か月間の取引であって、「一枚」とは大豆二五〇俵(袋)のことで、その取引に必要な証拠金は一枚七万円であることなどの先物取引の概要を約二〇分間にわたって説明した。当時、原告は、測量士補の資格を持ち、a株式会社の土木測量一般、気象観測調査に従事し、現場代理人もしていたが、商品取引に関する知識が全くなく、もちろん取引経験も皆無であった。

被告Y4は、同月一四日午前九時すぎ、同じく勤務先の原告に電話し、「今がチャンスだと思うのでどうですか。」などと輸入大豆の先物取引を勧誘し、その承諾のもとに、同日昼ころ、再び原告を勤務先に訪ねた。そして、名古屋穀物商品取引所の受託契約準則(乙三)、「商品取引委託のしおり」(乙五)を原告に交付の上、右準則の内容、証拠金の種類、決済の方法、受託証拠金の返還時期、売買取引の禁止事項などを一応説明した。しかし、被告Y4は、原告に対し、商品取引が短期間に巨額の損失を被る危険性があることについての説明はせず、原告が金もうけに強い関心があることから、「パチンコをしても二、三万しかもうからないが、輸入大豆の取引をすると、比べものにならないくらいもうかりますよ。」「大豆は値段からみて、今が買い時だから買ってみませんか。」「日数もあまりかからない。」などと言って勧誘した(被告Y4が五月一四日原告の勤務先を訪問し、輸入大豆の先物取引を勧誘したことは当事者間に争いがない。)。その結果、原告は、輸入大豆の先物取引が短期間で容易に多額の利益が得られるものと誤信し、金もうけのため、被告Y4に勧められるまま、前記のとおり、名古屋穀物商品取引所の商品市場における売買取引を被告会社に委託することにした。そして、五月一四日付けをもって、その旨、記載の「承諾書」(乙一)に署名、押印し、これを被告会社に差し入れ、被告Y4の勧めに従って、五枚の買玉を建てることを承諾した。

そこで、被告Y4は、原告の顧客カード(乙一三)を作成し、被告支店に提出した。同カードには、原告の氏名、年齢、住所、職業、家族、資産、収入状況等のほか、訪問及び電話記録等が記載されているが、このうち、資産・収入状況欄の「資産・預貯金二〇〇万円、不動産、収入・年収三二〇万円」の記載は、被告Y4が原告との面談の結果、その推測に基づきこれを記載したものであって、原告から直接聴取したものではなかった。

3  原告は、五月一七日、五枚分証拠金三五万円を、被告会社の銀行口座に振り込んで預託し、取引1をした(当事者間に争いがない。)。

被告Y2は、同日午前九時ころ、電話で、原告に挨拶をすると共に、原告の先物取引についての理解ないし基礎知識を一応確認し、原告に一〇月限の買玉五枚を注文することの確認も取った。

原告の右注文は、商品取引についての理解ないし知識も十分でなく、初めての取引であることもあって、成行で場、節も含め、すべて被告Y4ないし被告Y2に勧められるまま、いわばこれに盲従したような格好であった。以下、本件取引についての原告の注文は、後記のとおり、取引終了までほぼ同じであった。

4  原告は、五月一八日午後二時ころ、被告支店に電話した。これを受けた被告Y2は、原告に値段の動き等を説明したほか、「まだ相場が上がりそうなので、あと一五枚加えたらどうか。もうかる額が違うよ。」と勧誘した。これに対し、原告は、被告Y2に勧められるまま、「じゃ、それでいい。」と答え、新たに一〇月限一五枚の買建てを成行で注文した。かくて、取引2が成立した(当事者間に争いがない。)。右証拠金一〇五万円は、翌一九日、原告が集金に来た被告Y4に手渡した。

5  被告会社相談室長A(A)は、六月九日原告の前記顧客カードの記載内容を直接確認するため、原告を勤務先に訪ねて面談した。Aは、原告に(1)職務内容、(2)連絡状況、(3)情報の入手方法、(4)家庭環境、(5)資産・収入状況などを質問した。その際、資産・収入状況については、被告Y4が推測に基づき記載の金額をほぼ肯定した。ただ、原告の家族としての父は、既に死亡していたことが判明したので、その旨同カードの記載を訂正した。

6  原告は、六月二七日昼すぎ、建玉の値段を問合わせのため、被告支店に電話をかけた(原告が当日被告支店に電話をかけたことは当事者間に争いがない。)。これを受けた被告Y3は現在の状況等を説明した上、「値段が先行き高そうだから、新たに一一月限に乗り替えたらどうか。」と勧誘した。その結果、原告は、被告Y3に勧められるまま、これを承諾し、取引1の買玉五枚と取引2の買玉一五枚を仕切り、新たに一一月限二六枚の買建てを注文し、取引3をした(取引1、2の仕切り、取引3は当事者間に争いがない。)。右証拠金として必要な既に預託の二〇枚分との差である六枚分四二万円については、取引1、2を仕切って得た利益金四三万七五〇〇円の中から振り向けた。そして、残金一万七五〇〇円は、被告Y3が翌日原告のもとに持参して手渡した。なお、取引3は、管理規則により、原告が取引を初めて三か月以内の新規委託者で建玉枚数が二〇枚を超えるため、被告Y3において、同取引受注後の六月二七日、「原則以上の建玉調書」を作成して許可申請をし、被告支店長の被告Y2から原告の取引枚数を三〇枚までとする旨の許可を得た。被告Y2は、原告の前記顧客カードの記載及び毎日のように被告支店に電話をかけてくるこれまでの原告の言動等から、原告が積極的で、先物取引の理解度も高いと判断し、右のようにこれを許可した。

7  原告は、七月六日昼ころ、被告支店に電話をかけた。これに出た被告Y3は(以上の点は当事者間に争いがない。)、「値段が下がる。」「追証がかかれば多額の金が必要になり、二、三日続くとどうしようもなくなる。」「一番の良策は売りを入れること。二倍の五〇枚。」と新たに売玉五〇枚の注文を勧めた。その結果、原告は、被告Y3に勧められるままこれを承諾し、取引4をするに至った(取引4は当事者間に争いがない。)。

被告Y3は、取引4の建玉枚数が前記許可の三〇枚を超えるため、前同様、被告Y2からこれを一〇〇枚までとする旨の許可を受けた。

取引4の証拠金三五〇万円は、原告が自己所有土地に根抵当権を設定して、高山市農業協同組合からこれを借り入れ、同月九日、被告会社に預託した(右のように取引4の証拠金を預託したことは当事者間に争いがない。)。

8  原告は、七月二〇日午前一〇時三〇分ころ、被告支店に電話したところ、被告Y2がこれを受けた(時間を除き、当事者間に争いがない。)。被告Y2は、前日の値動きが全限月とも値下がりしたことと、当日の第一回立会(前場二節)の成立値段を告げると共に、当日の日本経済新聞朝刊に「二七日当ぎり納会を前に中国産輸入大豆の供給過剰感は強まる一方。全国港頭在庫は七万トンを大幅に超えており、シカゴ高とはいえ、買い方としても強気になれない状況」といった記事から、「二七日当限納会を前に中国産大豆の在庫が多くて供給過剰感が強まり、値下がりに向かうんじゃないか。」との説明をした。そして、「今度の納会は下げそうだから売った方がよいのではないか。」(この点は当事者間に争いがない。)「納会が安くなれば、期近の限月の方が安く影響してくるので、両建しているのを両方とも決済して、期近のものを売り建てした方がよいのではないか。」と勧めた。原告は、被告Y2の説明をよく理解できなかったものの、右勧めを承諾した。

かくて、被告Y2は、取引3の買玉二六枚と取引4の売玉五〇枚を仕切り、新たに九月限の売玉六六枚を建て、取引5―1―1、2、5―2―1ないし3、5―3ないし5が成立した(当事者間に争いがない。)。

9  原告は、七月二一日午後四時四〇分ころ、建玉の値動きを尋ねるため、被告支店に電話をかけた。これに出た被告Y2は、「今日の外電によるとストップ高で、国内もストップ高になっている。」「明日もストップ高になりそうだ。」との見通しを伝えた。これに対し、原告から対策を尋ねられたので、原告が前日建てたばかりの九月限売玉が値上がりし、証拠金の半額相当の値洗い損が出て、追証が必要となる限界に達していたので、その旨も説明した上、「両建の方法がよい。」「一〇〇枚の買いを入れないとえらいことになりますよ。」「証拠金は一週間後でよいから。」と言ってこれを強く勧めた(被告Y2が当日原告に電話で、「今日の外電によるとストップ高だ。」「国内もストップ高になりそうだ。」と話したことは当事者間に争いがない。)。

原告は、「昨日は売りを勧めておきながら、今日は買いを一〇〇枚入れよというのは、ひどすぎるではないか。」と文句を言ったものの、被告Y2の言うままに一〇〇枚の買いを入れることにした。

そこで、被告Y2は、翌二二日、一二月限一〇〇枚を買い建てる取引6をした(取引6は当事者間に争いがない。)。

取引6により、原告の建玉総数が一六六枚となって前記許可枚数一〇〇枚を超えることになったので、被告Y2は、同日、「原則以上の建玉調書」を作成し、自ら原告の建玉を二〇〇枚まで許可した。

右証拠金六九三万円(買い一〇〇枚分の証拠金は七〇〇万円であるが、次の残金七万円をこれに充当したことによる。すなわち、七月九日時点の売玉七六枚の証拠金五三二万円が、同月二〇日に売玉六六枚を建てて一本化したため、七〇万円の余裕が出たものの、六四万円の帳尻損により残った六万円と、同月二八日の取引6の益金四〇〇万円を同日買増しの五七枚の証拠金三九九万円の振り替えで残った一万円の計七万円)は、原告が前記7の根抵当権の極度額を増額変更すると共に、新たに土地の追加担保を提供の上、再び高山市農業協同組合から金員を借り入れ、同月二八日、高山市内で被告Y2にこれを手渡した。

10  原告は、七月二八日午前九時ころ、被告支店に電話した。応対に出た被告Y2(以上の点は当事者間に争いがない。)は、「七月二七日付の日本経済新聞に、中国産大豆の追加商談がまとまるという記事が載り、期先に商社のヘッジ売りが入ってくるから上げ幅が少ない。また、当時、大阪市場で一〇月ものの仕手戦が行われているとのうわさがあったから、期先ものよりも一〇月限の方が上げ幅が大きいだろう。」との相場観を話した上、一二月限のものを一〇月限に買い直すように勧めた。これに対し、原告は、うまくうやってくれるだろうと考え、右勧めに従った。

そこで、被告Y2は、取引6の一二月限の買玉一〇〇枚を仕切り、一〇月限の買玉一四六枚を建てる取引7をした(取引6の仕切り、取引7は当事者間に争いがない。)。被告Y2は、取引7につき、原告の建玉枚数が二〇〇枚を超えることになるので、前同様、自らこれを二五〇枚までとする許可をした。

右取引の結果、一二月限の買玉一〇〇枚の仕切り値が前日よりも高かったので、七五万円の利益が出た。被告Y2は、同利益金を証拠金に振り替えて、更に一一月限の買玉一一枚を建てる取引8をした(取引8は当事者間に争いがない。)。

11  原告は、八月二日、昼休みに被告支店に電話した。被告Y3は、原告に対し、取引7の一〇月限の買玉一四六枚及び取引8の一一月限の買玉一一枚を仕切り、新たに一二月限の買玉一八〇枚を建てることを勧めた(当事者間に争いがない。)。原告は、よく理解できなかったものの、被告Y3がうまくやってくれるだろうと考え、右勧めに従って注文することを承諾した。

そこで、被告Y3は、取引7、8を仕切り、一二月限の買玉一八〇枚を新たに建て、取引9―1、2をした(取引7、8の仕切り、取引9―1、2は当事者間に争いがない。)。

12  原告は、八月四日昼ころ、被告支店に電話した。同電話に出た被告Y3は、一二月限の買玉五〇枚を仕切り、新たに一〇月限五五枚の新規買付注文を勧めた。原告は、被告Y3に勧められるままこれを承諾した。

そこで、被告Y3は、取引9―1の一二月限の買玉五〇枚を仕切り、一〇月限五五枚を買い建てる取引10、11をした(以上は、被告Y3に勧められるままとある点を除き、当事者間に争いがない。)。

右取引の証拠金三五万円は、原告が同日、被告会社に預託した。

これに先立ち、被告Y3は、原告の建玉枚数が二五〇枚を超えることになるので、前同様、被告Y2にこれを三〇〇枚までとする許可申請をし、その許可を得た。

13  被告会社は、八月五日、原告に対し、追証九〇九万二五〇〇円が必要になったとし、これを八月六日正午までに預託してもらいたい旨の書面を送付した。

原告は、翌六日、被告支店に電話した。同電話に出た被告Y3は、原告に取引9―2の買玉一三〇枚を仕切り、新たに一月限の売玉六五枚(取引12)の注文を勧めた。原告は、被告Y3に勧められるままこれを承諾した。

そこで、被告Y3は、取引9―2を仕切り、取引12をした(以上は、被告Y3に勧められるままとある点を除き、当事者間に争いがない。)。

14  原告は、八月八日、被告Y3に勧められるまま注文を委託した。

被告Y3は、午前八時五〇分ころ、取引5―1―1の九月限の売玉六枚を仕切り、午前一〇時三〇分ころ、取引11の一〇月限の買玉五枚を仕切り、午後〇時五〇分ころ、取引5―1―2の九月限の売玉一〇枚を仕切って、一〇月限の買玉一二枚を建てる取引13をした(取引5―1―1、2、11の仕切り、取引13は当事者間に争いがない。)

15  原告は、八月一一日午前一〇時ころ、被告支店に電話した。同電話に出た被告Y2は、「売りを一部決済して買いに回した方がよい。」と勧めた。そのため、原告は、被告Y2に勧められるままこれを承諾した。

そこで、被告Y2は、取引12の一月限の売玉六五枚を仕切り、新たに一月限五八枚を買い建てる取引14―1―1、2、14―2ないし5をした(取引12の仕切り、取引14―1―1、2、14―2ないし5は当事者間に争いがない。)。

16  被告会社は、原告に対し、八月一二日、追証六二九万二五〇〇円が必要になったとし、これを八月一五日正午までに預託してもらいたい旨の、ついで八月一九日、追証六七九万二五〇〇円が必要になったとし、これを八月二〇日正午までに預託してもらいたい旨の、各書面を送付した。

原告は、八月二二日午後一時ころ、被告支店に電話し、被告Y2に「追証の資金が用意できない。」旨を伝えた。そこで、被告Y2は、取引10の一〇月限の買玉五〇枚の仕切りを勧めた。原告は、被告Y2の勧めるままこれを承諾した。

かくて、被告Y2は取引10を仕切った(取引10の仕切りは当事者間に争いがない。)。

17  被告Y2は、八月二七日ころ、原告に対し、「九月一日から九月限の玉については三万円の臨時増証拠金が上乗せされる。」旨を連絡した。ところが、八月三一日、原告から「臨時増証拠金の資金は用意できない。」と言われたので、九月限の売玉及び一〇月限の買玉の仕切りを勧めた。

原告は、被告Y2に勧められるままこれを承諾し、同日、取引5―2―1の九月限の売玉一〇枚、取引5―2―2の同売玉一五枚、取引13の一〇月限の買玉一二枚、取引5―2―3の九月限の売玉五枚を順次仕切った(右各取引の仕切りは当事者間に争いがない。)。

そして、被告会社は、同日、原告に対し、追証四〇一万円を九月一日正午までに預託してもらいたい旨の書面を送付した。

18  被告Y3は、九月二日、原告が前記追証四〇一万円を被告会社に預託しなかったので、取引14―1―1の一月限の買玉五枚を仕切った。

原告は、同日、被告支店に電話して、「追証の資金を用意できない。」旨を申し出て、被告Y2に勧められるまま、取引5―3の九月限の売玉一〇枚、取引14―1―2の一月限の買玉一三枚を仕切った(以上各取引の仕切りは当事者間に争いがない。)。

しかし、原告の建玉には証拠金一万五〇〇〇円及び追証二五五万円が必要であったので、被告会社は、同日、原告に九月三日正午までにこれを預託してもらいたい旨の書面を送付した。

19  被告Y3は、九月三日、取引14―2の一月限の買玉一枚を仕切った。

被告会社は、同月五日原告に対し、追証一七五万五〇〇〇円が必要になったとし、これを九月六日正午までに預託してもらいたい旨の書面を送付した。

原告は、同月六日、被告支店に電話で「追証拠金を用意できない。」旨連絡し、被告Y3に勧められるまま、取引5―4の九月限の売玉五枚、取引14―3の一月限の買玉九枚を仕切った(右各取引の仕切りは当事者間に争いがない。)。

20  原告は、九月一六日午前一一時二五分ころ、被告支店に電話した。そして、同電話に出た被告Y2から、買玉の決済を勧められたので、勧められるまま、これを承諾した。

そこで、被告Y2は、取引14―4の一月限の買玉二〇枚を仕切った。

原告は、同月一七日午前一〇時五五分ころ、被告支店に電話し、被告Y2に「今あるものを全部決済してもらいたい。」旨申し出た。

そこで、被告Y2は、取引5―5の九月限の売玉五枚、取引14―5の一月限の買玉一〇枚を仕切った。

これによって、本件取引はすべて終了した(以上各取引の仕切り、本件取引の終了は当事者間に争いがない。)。

21  本件取引につき、被告会社は、取引の都度、原告あてに具体的取引内容等の明細を記載の委託売付・買付報告書及び計算書を送付し、かつ、毎月末日現在における建玉内訳、値洗い損益金、証拠金現在高等を記載の残高照合通知書を送付していたが、これらに対し、原告から異議ないし苦情が出たことはなかった。

三  本件取引の違法性

1  請求原因3(一)のうち、原告主張のような商取法九四条、指示事項、管理規則は当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に前記一、二の当事者及び本件取引の経緯を併せ考え、本件取引全体を総合的見地から観察するならば、被告Y2、同Y3、同Y4は、被告支店における被告会社の商品取引の受託業務を行うにあたり、相互に一定の役割を分担しつつ、共同して原告を顧客に勧誘し、本件取引を受託したことが明らかであるのみならず、同被告らの右業務の執行は、少なくとも、次のとおり、商取法九四条、指示事項、管理規則に違反し、同規範が商品取引員の内部的な行為規範とはいえ、その趣旨とする商品取引における適正な取引の確保ないし委託者の保護育成に著しく欠け、社会通念上相当でないから、委託者に対する関係に置いても違法というべきである。

(一)  すなわち、被告Y4の原告に対する商品取引の勧誘は、原告が金もうけに強い関心があり、まだ商品取引についての知識も十分でないのに乗じ、「パチンコと比べものにならないくらいもうかる。」などと断定的判断を提供して勧誘し、そのため、輸入大豆の先物取引が短期間で容易に多額の利益を得られるものとの誤解を、原告に与えるに至ったことは前記二2認定のとおりである。

そうすると、被告Y4は、商品取引の危険性を説明せず、その有利さのみを強調して勧誘したものにほかならず、商取法九四条に違反する悪質な勧誘というべきである。

(二)  そして、被告Y2、同Y3は、右のように被告Y4が被告支店の顧客として勧誘の原告を引き継ぐ格好で、前記二3、4、6ないし20認定のとおり、同被告らが入れ代わり立ち代わり本件取引の注文を受けるに至ったものであるが、そのうち、少なくとも取引開始の五月一七日から追証が頻繁にかかる前の八月一一日までの取引については、一応、原告から委託を受けた形式をとっているものの、右認定のような原告の取引委託の経緯、態様、特に短期間における頻繁な取引と建玉数量の増加のほか、前記二2、5認定のように、原告が本件取引まで商品取引の知識、経験が全くなく、その資産、収入等にかんがみると、右取引分は、原告が自主的判断に基づき取引を委託したものとはいえず、むしろ、被告Y2、同Y3が、原告から取引の価格、数量等について具体的指示を受けることなく受託したものというほかなく、実質的には、商取法九四条が禁じている一任売買に当たり、商品取引上、相当性を欠く取引というべきである。

もっとも、原告が、前記二21認定のとおり、被告会社から、右取引分についても、委託売付・買付報告書及び計算書等の送付を受けながら、これに異議等を述べたことがなく、しかも、乙六によれば、原告は、被告会社の書面による択一的記入方式のアンケート調査に置いて、「売り買いの注文は、自分の意志で行っている。」とし、「売、買、報告書も自分自身で確認している。」旨を昭和五八年六月九日付をもって回答していることが認められる。

しかし、前者については、原告は、さきにも認定のとおり、もともと商品取引についての知識も十分でなく、これを理解しないまま本件取引を続けていたもので、後記(四)のような被告Y2、同Y3の手数料稼ぎの受託に照らし、また、後者については、原告は、反面、同アンケートで建玉枚数、値段及び委託証拠金につき、「よくわからない。」旨の回答をしていることに照らし、右事実もまだ前記認定を左右するものではない。

(三)  ところで、両建の勧誘が、前記(請求原因4(一)(5))のように指示事項で禁止しているのは、両建が、委託者にとっては、損勘定の認識を誤るおそれが強い上、反対建玉分の委託手数料を新たに負担しなければならず、反面、受託者にとっては、顧客との取引を継続して以後の増玉を期待することができ、手数料収入を確保できるなどの利点があるので、商品取引員ないし外務員が手数料取得のため、委託者を誤導して勧誘することにつながりやすいことによるものと解される。

ところが本件取引に置いては、前記二7ないし20認定のとおり、このうち七月六日から九月一七日までの取引は常時両建がなされ、被告Y2、同Y3は、右両建を勧めるにあたり、「追証がかかれば多額の金が必要になり、二、三日続くとどうしようもなくなる。」「一番の良策は売りを入れること。」(取引4)、「一〇〇枚の買いを入れないとえらいことになりますよ。」(取引6)などと、両建にしないと大損をするかのように言って、これを勧めていたことが明らかである。

そうすると、被告Y2、同Y3の両建の勧誘は右指示事項に著しく違反するというべきである。

(四)  加えて、本件取引のうち、取引1、2から3への買直し、取引4から5―1―1、2、5―2―1ないし3、5―3ないし5への売直し、取引6ないし8、9―1、2、10、11、13、14―1―1、2、14―2ないし5の買直しが、短日時に頻繁に行われていたことは前記二6ないし15認定のとおりである。特に、取引5―1―1、2、5―2―1ないし3、5―3ないし5が建てられている間の、取引6ないし8、9―1、2、10、11、13、14―1―1、2、14―2ないし5の買直しは、原告が取引を始めてまだ間がないのに、受託枚数を増やした両建の状態で、極めて短日時の間に頻繁に行われた買直しであることが明らかである。

そうすると、右事実と後記(五)のような原告の受託枚数の増加変更についての許可の経緯にかんがみると、被告Y2、同Y3は、原告から手数料稼ぎを意図して受託したものと推認され、前記指示事項(請求原因4(一)(6))に著しく反するものというべきである。

(五)  また、新規委託者(取引開始後三か月未満の者)の受託枚数を制限する管理規則が前記(請求原因4(一)(9))のとおりであって、被告支店長の被告Y2が、新規委託者である原告の受託枚数につき、六月二七日に三〇枚、七月六日に一〇〇枚、同月二二日に二〇〇枚、同月二八日に二五〇枚、八月四日に三〇〇枚と増やすことを許可し、右各許可の経緯については前記二6、7、9、10、12認定のとおりである。

そうすると、被告Y2が、原告の商品取引の建玉受託を担当しながら、自ら右許可をしていたことの当否は別としても、一枚当たりの証拠金が七万円を要するのに、原告の資産収入等が前記二2、5認定のとおりであることにかんがみると、右のような短期間における再三にわたっての受託枚数の増加変更についての右各許可は、単に形式を整えるものにすぎず、管理規則に明らかに違反し、委託者の保護育成に著しく欠けることが明らかである。

四  被告らの責任

1  被告Y2、同Y3、同Y4

被告Y2、同Y3、同Y4が、前記三のとおり、共同して違法な勧誘ないし本件取引を受託したものであるから、少なくとも同被告らの過失によることが明らかであるから、共同不法行為として民法七一九条により、後記原告の損害を賠償する責任がある。

2  被告Y1の責任

原告は、被告Y1もまた、いわば会社ぐるみで前記違法行為を行った旨主張するが、本件全証拠によっても同被告の右違法行為はこれを認めることができないから、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、被告Y1が被告会社の代表取締役として、被告Y2、同Y3、同Y4を選任、監督する地位にあったから、民法七一五条二項による責任がある旨主張するが、いわゆる代理監督者としての責任を負うためには、現実に被傭者の選任、監督を担当していたことが必要と解されるところ、被告Y1が被告会社の代表取締役であることは明らかであるけれども、同被告が現実に被告Y2、同Y3、同Y4の選任、監督を担当していたことを認める証拠がないから、原告の右主張もまた採用できない。

そうすると、原告の被告Y1に対する本訴請求は理由がない。

3  被告会社の責任

被告会社が被告Y2、同Y3、同Y4の使用者であり、同被告らが被告会社の業務の執行にあたり、前記三のような違法行為により、原告に後記損害を与えたのであるから、被告会社は、使用者として民法七一五条一項による責任がある。

五  原告の損害

1  原告が被告会社に対し、五月一七日から九月一七日までの間、本件取引の証拠金として合計一二六〇万円の現金を預託したことは当事者間に争いがない。

証拠(乙一二の1、2)によれば、被告会社は、昭和五八年一一月七日、原告に対し、右証拠金のうち現金一五〇万二五〇〇円を返還したことが認められる(被告らは、右返還金が一五七万円である旨主張するが、これを認める証拠がない。)。

そうすると、原告が本件取引によって被った財産的損害は、右両者の差額である一一〇九万七五〇〇円と認められる。

2  原告は、本件取引によって巨額の財産的損害を被り、精神的苦痛も受けたとして慰謝料二〇〇万円を請求する。

しかし、このような財産的損害に基づく精神的苦痛は、本来、財産上の損害の回復によって慰謝されるから、右慰謝料としては、これをもってしても、なお回復し得ない特別の事情がある場合にのみ考慮し、これを認めるのが相当である。ところが、本件においては、右特別の事情はこれを認める証拠がないから、原告の右慰謝料請求は理由がない。

六  過失相殺

前記一、二の事実によれば、①原告は、高校卒業後、相当の職歴、社会人としての経験を有していたのであるから、本件取引の開始にあたり、被告Y4から交付を受けた「商品取引委託のしおり」等をよく読んで商品取引の仕組み等の理解に努め、先物取引が投機性の高いもので、それ相応の専門的知識や経験がなければ時として大きな損害を被ることがあることを容易に知るべきであったのに、金もうけのため、軽率にも、被告Y4の「パチンコとは比べものにならないくらいもうかる。」などといった勧誘の言葉を信じて本件取引をするに至っていること、②原告は、ほとんどの本件取引について、自ら被告支店に建玉の値動き等を知るための電話をするなどしていたほか、被告会社から、取引の都度、委託受付・買付報告書及び計算書の、取引中、毎月末日現在の残高照合通知書の、各送付等を受けていたにもかかわらず、被告Y2、同Y3の勧める内容も十分理解しないまま、漫然とこれに従って本件取引を継続していたこと、③原告は、本件取引開始後間もなく、被告会社から追証を請求される事態が生じたにもかかわらず、被告Y2、同Y3に勧められるまま本件取引を継続し、早期に手仕舞いしなかったことが認められる。

右事実にかんがみると、かかる原告の態度が本件損害の発生及び拡大に重大な原因を与えたことは明らかであるから、前記五認定の原告の損害のうち、五割を過失相殺するのが相当である。そうすると、原告の財産的損害は五五四万八七五〇円となる。

原告は、本件のような欺まん的取引においては過失相殺をすべきでない旨主張するけれども、本件取引が欺まん的とまで断定できる証拠はないのみならず、もともと過失相殺の制度は、損害の発生、拡大について被害者側に落ち度があった場合、損害の公平、妥当な分担を実現するため、賠償額を定めるにあたって被害者側の過失を斟酌し、事案に即した解決を図る制度であるから、原告に前記認定のような過失がある以上、右主張は採用できない。

七  弁護士費用

原告が、本件訴訟代理人弁護士らに本件訴訟の追行を委任し、報酬の支払を約したことは弁護の全趣旨により明らかであり、本件事案の性質、審理経過、認容額等にかんがみると、弁護士費用のうち、四〇万円を被告会社、被告Y2、同Y3、同Y4に負担させるのが相当である。

八  結論

以上のとおりであるから、被告会社、被告Y2、同Y3、同Y4は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、各自、前記六、七の合計五九四万八七五〇円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五九年八月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告の右被告らに対する請求は、右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求及び被告Y1に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内純一 裁判官 藤田昌宏 裁判長裁判官 角田清は、転補のため署名押印できない。裁判官 竹内純一)

<以下省略>

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